給与を上げられない会社が採用で戦う方法は、待遇の勝負から降りることです。待遇は資本力の勝負であり、原資のない会社が同じ土俵に立てば必ず負けます。勝てるのは「価値観の解像度」という土俵で、これは資本ではなく発信量で決まります。会社の考え方を検索可能な形で蓄積すれば、条件以外の理由で選ばれる可能性が生まれます。
給与を上げられない会社は、どう採用すればいいのか?
結論から書きます。待遇の勝負から降りてください。そして、条件では比較されない状態を作ってください。
これは「諦めろ」という話ではありません。勝てない土俵で戦い続けるより、勝てる土俵に移るほうが合理的だという、ごく単純な話です。そして中小企業には、大手が構造的に真似しにくい土俵があります。
その土俵とは、「この会社が何を考えているか」の解像度です。社長の顔が見え、判断の理由が読め、失敗した話まで公開されている会社。これは組織が大きくなるほど作りにくくなります。大手企業の社長が、個別案件の判断理由を毎月公開することは現実的ではありません。中小企業だからできることです。
なぜ待遇の勝負は中小企業に不利なのか?
数字で見ると、不利さの度合いがはっきりします。
リクルートワークス研究所の「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」によれば、大卒求人倍率は全体で1.66倍でした。ところが従業員300人未満の企業に限ると8.98倍です。1人の学生に対して約9社の求人がある状態で、これはコロナ禍前のピークである2019年卒の9.91倍に次ぐ高い水準です。
出典:リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」2025年4月24日発表https://www.works-i.com/surveys/report/250424_recruitment_saiyo_ratio.html
| 企業規模 | 大卒求人倍率(2026年卒) | 意味 |
|---|---|---|
| 全体 | 1.66倍 | 1人あたり1.66件の求人 |
| 従業員300人未満 | 8.98倍 | 1人あたり約9件の求人=9社で奪い合い |
この状況で「給与を10%上げる」という手を打ったとします。9社のうち何社が同じことをできるでしょうか。おそらく大半です。そして原資の大きい会社は、10%ではなく20%上げられます。待遇の競争は、参加した瞬間に資本力の比較になります。
さらに厄介なのは、待遇で採用した人材は、待遇で離れるということです。より条件の良い会社が現れれば、そちらに移ります。待遇で採り続ける限り、待遇で引き止め続けなければならず、この支出は終わりません。
待遇以外で求職者が会社を選ぶ基準は何か?
条件以外で判断される要素は、大きく次の4つに整理できます。
| 判断軸 | 求職者が知りたいこと | 中小企業の勝ち目 |
|---|---|---|
| 仕事の中身 | 実際に何をするのか。裁量はどれくらいあるか | 高い(範囲が広く、意思決定に近い) |
| 一緒に働く人 | 上司はどんな人か。どんな考え方をするのか | 高い(人数が少なく、可視化しやすい) |
| 会社の方向性 | 何を目指しているのか。自分の目標と重なるか | 高い(社長が直接語れる) |
| 成長できるか | 入社後に何が身につくか | 中(環境整備が必要) |
注目していただきたいのは、上の3つがすべて「情報があるかどうか」の問題だという点です。会社を変える必要はありません。すでにある実態を、外から読める形にすればいいだけです。
逆に言えば、この3つの情報が出ていない会社は、求職者にとって「条件でしか判断できない会社」になります。そして条件で判断されると、待遇で勝る会社が選ばれます。情報を出さないことが、自ら不利な土俵に移動する行為になっているのです。
「働きがい」「アットホーム」はなぜ響かないのか?
情報を出そうとした会社が、最初につまずくのがここです。「働きがいのある職場です」「アットホームな雰囲気です」「風通しが良い社風です」——これらの表現は、ほとんど効果がありません。
理由は3つあります。
- どの会社も同じことを書いている — 差別化の情報として機能しません。100社の採用サイトを見れば、90社に同じ言葉が並んでいます。
- 検証できない — 「アットホーム」が本当かどうか、外からは確認できません。検証できない主張は信用されません。
- 都合の悪いことが書かれていない — 良いことだけが並んでいる文章は、それ自体が不信の材料になります。
つまり抽象語は、情報を出しているように見えて、実は何も出していないのです。
ノルツ株式会社 代表取締役 原本 昌悟「『アットホーム』と書く代わりに、先週あった出来事をそのまま書いたほうが伝わります。誰かがミスをして、どう対応したか。その1件のほうが、社風の説明として100倍わかりやすい。抽象語は、具体を書く手間を省くための言葉なんです。」
価値観は、どうすれば伝わる形になるのか?
抽象語を具体に変換する方法は、次の4つです。
- 判断の理由を書く — 「顧客第一です」ではなく、「利益が出る案件を断ったことがある。理由はこうだ」と書きます。判断は具体的なので、検証できます。
- 失敗を書く — うまくいかなかった案件、間違った採用、撤退した事業。失敗が書かれている文章は、成功だけの文章より信用されます。
- 合わない人を書く — 「こういう人には向いていません」と書くことは、リスクではなく信頼になります。そして本当に合わない人が応募してこなくなるため、選考の効率も上がります。
- 面倒な部分を書く — 仕事の地味な部分、大変な部分を隠さずに書きます。入社後のギャップが減り、早期離職を防げます。
共通しているのは、都合の悪いことも書くという点です。良いことだけを書いた文章は広告として読まれ、都合の悪いことも書いてある文章は情報として読まれます。求職者が求めているのは情報です。
発信を始めても、書く人がいない場合はどうするのか?
ここが最大の壁です。方向性は理解できても、実行できる会社は多くありません。理由は明確で、書けるのが経営者だけであり、その経営者に書く時間がないからです。
対策として一般的に取られるのは次の3つですが、いずれも問題があります。
| 対策 | 問題点 |
|---|---|
| 社内の担当者に任せる | 判断の根拠を持っていないため、当たり障りのない文章になる。結局「アットホーム」に戻る |
| ライターに外注する | 取材の時間調整が発生する。取材頻度が下がると更新が止まる |
| AIツールで自動生成する | 元ネタがWeb上の一般論になるため、他社と同じ内容になる |
この3つに共通する問題は、「経営者の頭の中にある情報」を取り出す工程が設計されていないことです。情報源は経営者にしかないのに、その取り出し方が決まっていないため、どの方法も途中で止まります。
解決の方向性は、書く工程を経営者から外すことです。話すことは日常業務の延長でできますが、書くことは独立した作業時間を要求します。ここを分離できれば、発信は続きます。詳しくは経営者の発信が続かない理由で解説しています。
魅力採用「ミリョクル」という選択肢
ミリョクルは、この「書く工程を経営者から外す」ことに特化したサービスです。月1回・60分話すだけで、AIが会社の考え方を記事にして自社サイトに蓄積します。初期費用100,000円、月額100,000円(税別)。記事本数は収録内容により変動し、本数の保証はありません。魅力採用の考え方と合わせてご覧ください。
今日から何を始めればいいのか?
最初の一歩は、書くことではありません。思い出すことです。
- この1年で断った案件を1つ思い出す。なぜ断ったのかを言葉にする
- 採用で失敗した人を1人思い出す。どこが合わなかったのかを言葉にする
- 業界の常識で、自社は違うと思っていることを1つ挙げる
- この3つを、誰かに話してみる(録音しておくとなお良い)
この4ステップで、すでに記事3本分の材料が出ます。ネタがないのではありません。取り出す機会がなかっただけです。
