理念が浸透しない主な原因は、理念そのものではなく「経営者の思考プロセスが見えないこと」です。厚生労働省の令和5年雇用動向調査では、前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた人は男性8.1%・女性9.6%でした。上司の考えが日常的に可視化されていれば、相互理解の不足は緩和できると考えています。
理念はなぜ浸透しないのか?
理念浸透に取り組む会社の多くが、次のことをしています。理念を策定し、額に入れて掲げ、朝礼で唱和し、社員手帳に印刷する。それでも「浸透している」と実感できる会社は多くありません。
原因は、理念を「言葉」として伝えているからです。理念は言葉ですが、社員が知りたいのは言葉ではなく、その言葉が実際の判断にどう影響するのかです。
たとえば「顧客第一」という理念があったとします。社員が本当に知りたいのは、次のような場面での答えです。
- 納期と品質が両立しないとき、どちらを取るのか
- 利益が出る案件だが、顧客のためにならないとき、受けるのか
- 顧客の要求が理不尽なとき、どこまで応えるのか
- 社員の健康と顧客の期待が衝突したとき、何を優先するのか
これらに対する答えが見えて初めて、「顧客第一」という言葉に中身が入ります。理念は言葉としてではなく、判断の集積として浸透します。
理念浸透と定着率には関係があるのか?
直接的な因果を示すデータは限られていますが、離職の構造を見ると、関係があると考えられる部分があります。
まず前提となる数字です。厚生労働省が2025年10月に公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によれば、就職後3年以内の離職率は新規大卒就職者で33.8%でした(前年度から1.1ポイント低下)。3人に1人が3年以内に辞めています。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」2025年10月公表では、なぜ辞めるのか。厚生労働省「令和5年 雇用動向調査」によれば、前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた人は男性8.1%・女性9.6%でした。年代・性別によっては20%を超える層もあります。
出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/index.html
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 大卒3年以内離職率 | 33.8% | 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」2025年10月公表 |
| 前職を辞めた理由 「職場の人間関係が好ましくなかった」 | 男性8.1%/女性9.6% | 厚生労働省「令和5年 雇用動向調査」 |
人間関係を理由とする離職は、必ずしも「嫌がらせがあった」といった深刻な事態だけを指しません。相手が何を考えているかわからない、という状態の蓄積も含まれます。そしてこの状態は、コミュニケーション量が少ない職場ほど起こりやすくなります。
「上司が何を考えているかわからない」はなぜ起きるのか?
新人が抱えがちなこの状態は、上司に問題があるから起きるわけではありません。構造的に起きます。
上司は、部下より多くの情報を持っています。経営の状況、他部署の事情、顧客との経緯、過去の失敗。これらの情報をもとに判断していますが、判断の結果だけが部下に伝わり、判断の前提は伝わりません。
その結果、部下から見ると「なぜ急に方針が変わったのかわからない」「なぜあの案件だけ厳しいのかわからない」という状態になります。情報の非対称が、そのまま不信に変換されるのです。
解決策としてよく挙げられるのは「1on1を増やす」「コミュニケーションを増やす」です。方向としては正しいのですが、実行には時間が必要です。そして時間が足りないから、そもそもこの状態が起きています。
ノルツ株式会社 代表取締役 原本 昌悟「コミュニケーション不足を、コミュニケーションで解決しようとすると詰みます。時間がないから起きている問題を、時間をかけて解決しろという話になるからです。必要なのは、1対1で話さなくても上司の考えが伝わっている状態をつくることだと考えています。」
経営者の思考は、どうすれば可視化できるのか?
1対1で話す以外に、思考を伝える方法があります。書いて残しておくことです。
経営者と幹部が、判断の理由を日常的に記事として公開していれば、部下はそれを読めます。会議の場では聞けなかった前提、なぜその方針にしたのかという背景、過去に同じ場面でどう判断したか。これらが読める状態になります。
この方法には、1on1にない利点があります。
| 比較軸 | 1on1・面談 | 記事として残す |
|---|---|---|
| 必要な時間 | 人数×頻度×時間(人数が増えると破綻) | 1回で全員に届く |
| タイミング | 決められた日時のみ | 読みたいときに読める |
| 聞きにくいこと | 面と向かって聞きづらい話題がある | 聞かなくても書いてある |
| 新入社員への効果 | 入社後にゼロから始まる | 入社前から読める |
| 蓄積 | その場で消える | 残り続ける |
特に大きいのは、最後の2つです。入社前から読めて、かつ蓄積するという点は、面談では実現できません。
- 本節で述べている「記事による思考の可視化が定着率を向上させる」という効果については、ノルツとしての実測データはまだ取得できていません。構想および仮説として述べています。
- 離職率・離職理由の数値は公的統計に基づくものであり、当社サービスの効果を示すものではありません。
採用向けの発信が、なぜ入社後にも効くのか?
同じコンテンツが、2つの目的に使えるからです。
採用のために「経営者が何を考えているか」を発信すると、求職者はそれを読んで応募するかどうかを判断します。そして入社後、同じ記事が今度は「自分の上司が何を考えているか」を知るための資料になります。書き手も内容も同じで、読み手の立場だけが変わります。
さらに副次的な効果があります。入社前に読んだ内容と、入社後の実態が一致するという状態です。多くの早期離職は「思っていたのと違った」というギャップから起きます。入社前に判断の理由まで読んでいれば、このギャップは小さくなります。
つまり1つの取り組みが、次の3つに同時に効きます。
- 採用 — 求職者が条件以外で判断できるようになる
- 入社時のギャップ低減 — 事前に実態を知って入社するため、想定とのズレが小さい
- 入社後の理解促進 — 上司の思考が読める状態が続く
中小企業にとって、1つの投資で3つの課題に効くというのは無視できない利点です。採用予算と教育予算を別々に確保する余裕がない会社ほど、この構造は意味を持ちます。
今日から何を始めればいいのか?
理念を作り直す必要はありません。すでにある理念に、中身を入れる作業から始めます。
- 理念に関わる判断を1つ思い出す — 理念にもとづいて何かを決めた、あるいは断った場面を1つ挙げます
- その判断の前提を書き出す — なぜそう決めたのか。何を天秤にかけたのか。何を捨てたのか
- 社内に共有する — 朝礼でもチャットでも構いません。まず1回、判断の理由を共有します
- 記録に残す — その場で消えないよう、読める形で残します。ここまでやると資産になります
- 幹部にも同じことをしてもらう — 社長ひとりだと視点が偏ります。複数の視点があると、会社の輪郭が立体的になります
この5工程のうち、1〜3は今日からできます。4と5が仕組みになるかどうかで、一時的な取り組みで終わるか、資産になるかが分かれます。
魅力採用「ミリョクル」について
ミリョクルは、経営者と幹部社員の考えを月1回・60分の収録から記事にし、自社サイトに蓄積するサービスです。採用のために作ったコンテンツが、入社後の理念浸透・上司理解にもそのまま使えます。初期費用100,000円、月額100,000円(税別)。記事本数は収録内容により変動し、本数の保証はありません。詳しくは魅力採用とはをご覧ください。
