採用コンテンツのネタ探しは、EVP設計と同じ作業になる

幹部・先輩社員の声を拾うと、自然と「EVP(従業員価値提案)」の設計に近づく

EVP(従業員価値提案)を中小企業がゼロから設計しようとすると、専門用語とフレームワークの話になって止まりがちです。当社は先に社員の声を集めるほうが早いと考えています。幹部社員や先輩社員に「なぜ入社したか」「なぜ今も頑張っているか」「これからどうなりたいか」を聞いていく作業は、採用コンテンツのネタを集める作業であると同時に、EVPの設計そのものに触れていく作業でもあるからです。解説は、2019年6月にノルツ株式会社を設立して以来1人で会社を運営し、「書く時間がない」を当事者として経験してきた代表取締役・原本昌悟です。

要点

EVP(従業員価値提案)とは「この会社で働くと何が得られるか」を言葉にしたものです。会議室で先に定義しようとすると抽象論になりやすいのですが、幹部・先輩社員に3つの質問(なぜ入社したか/なぜ今も頑張っているか/これからどうなりたいか)を重ねると、答えの中にすでに成立している価値提案が現れます。EVPは新しく作るものではなく、すでに社内にあるものを見つけて言葉にする作業だと当社は考えています。

EVP(従業員価値提案)とは何か?中小企業にも必要なのか?

EVPは Employee Value Proposition の略で、日本語では従業員価値提案と訳されます。ただし、この言葉が具体的に何を指すかは論者や事業者によって説明が分かれます。ここから先は、当社が現場で使っているときの意味だと思って読み進めてください。当社は「この会社で働く人は、その対価として何を受け取るのか」を会社側から言葉にしたもの、と捉えています。給与や休日といった条件だけでなく、仕事のやりがい、身につく力、一緒に働く人、意思決定に関われる範囲などを含みます。

参考:Gartner「Employee Value Proposition」(2026年8月時点)
https://www.gartner.com/en/human-resources/topics/employee-value-proposition-evp

中小企業に必要かどうかについて、当社は必要だと考えていますが、大企業と同じ作り方をする必要はないとも考えています。中小企業には専任の人事チームも調査予算もないことが多く、EVP設計として一般に紹介されることの多い手順(従業員サーベイ→分析→EVPステートメント策定→社内浸透)をそのまま踏むと、着手する前に止まってしまうためです。

一方で、必要性そのものは中小企業のほうが高いと考えています。魅力採用という考え方の出発点にあるのは、待遇での勝負が資本力の勝負になるという構造認識です。給与水準や知名度で差をつけられない会社ほど、「では何が得られる会社なのか」を言葉にしておく必要があるということです。

オフィスの廊下で若手社員が先輩社員に相談を持ちかけている立ち話の風景

なぜ幹部・先輩社員の声を拾うと、EVPの設計に近づくのか?

今いる社員が働き続けている理由は、その会社ですでに成立している価値提案そのものだからです。

EVPを会議室で先に決めようとすると、「成長できる環境」「風通しの良い社風」といった、どの会社でも書ける言葉になりがちです。これは会社が悪いのではなく、抽象度の高いところから降りていく順番に無理があるのだと当社は考えています。逆に、実際に働いている人の具体的な話から始めれば、その会社にしかない事実が先に手元に集まります。

「従業員、先輩、社員の声というような形でヒアリングしていく…結局EVP、従業員価値提案の設計、そういったところにも実際には触れる」

ノルツ株式会社 代表取締役 原本 昌悟

ここで大事なのは、EVPを作ることを目的にしていない点です。目的はあくまで社員の話を聞いて発信することであり、EVPはその副産物として輪郭が見えてきます。先に定義せず、集めた後で言葉にする——この順番のほうが、中小企業にとっては着手しやすく、かつ内容が具体的になると考えています。

先輩社員には具体的に何を聞けばいいのか?

当社が基本にしているのは3つの質問です。過去・現在・未来を1本の線でつなぐ形になっており、この3つを複数の社員に聞くだけで、採用コンテンツのネタとEVPの材料が同時に集まります。以下の「EVPのどの部分になるか」の対応づけは、当社が実務で整理しているものです。

質問引き出せるものEVPのどの部分になるか
なぜ入社したか入社時に何を魅力だと感じたか、他社と何を比べたか求職者に届いている価値(=訴求すべき点)
なぜ今も頑張っているか入社後に分かった価値、続けられている理由実際に提供できている価値(=裏付けのある点)
これからどうなりたいかこの会社で描いている先の姿、身につけたい力これから提供する価値(=約束できる点)

3つを並べると使い分けがはっきりします。1つめは「入り口で効いた魅力」、2つめは「入ってから効いた魅力」です。この2つがずれている場合、求人で押していた点と、実際に人が残っている理由が違うということになります。そのずれに気づけること自体が、聞く価値のひとつだと考えています。

聞く相手は社長だけにしないほうがよいと考えています。代表・原本が挙げているのは幹部社員・従業員・先輩社員です。同じ会社でも、立場によって見えている景色が違うためです。

社長の言葉だけでは、なぜ足りないのか?

社長の言葉は「これから作りたい会社」を語り、社員の言葉は「今ある会社」を語るからです。入社後の毎日を想像するには後者が要る、と当社は考えています。

経営者の発信は魅力採用の出発点であり、価値観や判断基準を伝えるうえで欠かせません。ただ、社長が語る理念だけが並ぶ発信は、読む側から見れば検証しようがない状態でもあります。そこに先輩社員の具体的な話が並ぶと、理念と日常が突き合わせられるようになります。語る人が増えることは、内容が増えること以上に、確かめられる状態が増えることだと当社は考えています。

この点は定着の問題にも関わります。厚生労働省の「令和6年 雇用動向調査」では、転職入職者が前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた人は男性9.0%、女性11.7%でした(女性では「その他の個人的理由」を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.8%に次いで多い理由です)。人間関係は入社前には見えにくい領域のひとつですが、先輩社員が自分の言葉で語っているコンテンツは、そこを事前に開示する手段のひとつになります。入社後の理念浸透と定着の関係については理念浸透と定着率の関係で詳しく扱っています。

出典:厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」3 転職入職者の状況・表5(2026年8月時点の最新公表)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf
明るいオフィスで同僚の話に耳を傾けてうなずいている30代の女性社員

採用ブランディングでEVPを作るのと、何が違うのか?

採用ブランディングは「決めて発信する」、魅力採用は「見つけて磨きながら発信し続ける」という違いがあります。対立するものではなく、当社は両方を並行するのがよいと考えています。

採用ブランディングでは、まず今の会社にどんな魅力・価値があるかを把握し、そこから作り込んで発信していきます。設計の質は高くなりますが、一律に決まったものを提案する形になると、決まった時点で発信が止まりやすいという課題があると代表・原本は指摘しています。魅力採用のほうは、魅力を見つけ、作り、実践して磨き上げ、それを発信するというサイクルを回し続ける考え方だと位置づけています。

比較軸採用ブランディング型魅力採用型
EVPの作り方調査・分析を経て先に定義する社員の声を集めた後で言葉にする
成果物整理されたEVP・コンセプト更新され続けるコラムと社員の声

上の表はEVPの扱い方に絞った比較です。向き不向きや進め方を含めた全体の違いは「採用ブランディング」と「魅力採用」は何が違うのかで整理しています。本記事はその中でもEVPという一点に絞って、材料の集め方を扱いました。

集めた社員の声は、どこにどう使えばいいのか?

当社は原則としてコラム(ブログ)形式で自社サイトに蓄積し、あわせて複数のSNSにも展開することを勧めています。置き場所を1か所に決めて、そこに積み続けるという考え方です。

  1. 自社サイトのコラムに、社員ごとに独立した記事として置く — 社員インタビューを「採用ページの中の小さな枠」ではなく、独立した記事として置きます。検索の入り口が増え、後から個別に共有もできます。
  2. 新しい取り組みが出たらその都度追記・更新する — 例えば地域に喜ばれる仕事への誇りを発信している最中に、AIを活用した業務効率化や社員からの改善提案の吸い上げが始まったなら、それもリアルタイムで書きます。
  3. 各種SNSへ展開する — サイトに置いた記事を入り口にして、複数チャネルで届けます。読む人によって普段見ている場所が違うためです。

何を書けばいいか迷う場合は採用サイトに何を書けばいいかを、求職者の視点で何が読まれるかについては求職者が知りたいのは「差別化」ではなく「魅力」をあわせてご覧ください。

社員の声を集め続けるのは、中小企業にとって現実的か?

「書く作業」まで社内で持つ前提なら現実的ではありません。だから当社は、社内に残す作業を話すことだけにする設計にしています。

代表・原本はノルツ株式会社を2019年6月に設立し、代表1人で運営しています(2026年8月時点)。「書く時間がない」「発信が続かない」は他社の課題ではなく自分自身の課題として経験してきました。だからこそ、続かない理由を意志ではなく設計の問題として扱っています(詳しくは経営者の発信が続かない理由)。

話した内容を検索可能な記事として蓄積し続けるという仕組み自体には、マーケティング用途での実測があります。以下は当社の自社サイトとクライアントサイトの実績です。

サイト対象キーワード順位運用期間
kigyousien.com(自社)起業支援 伴走サポート1位1ヶ月
kigyousien.com(自社)起業支援 伴走1〜3位1ヶ月
souryokomon.com(クライアント)僧侶顧問1位1ヶ月
souryokomon.com(クライアント)仏教 組織開発1〜3位1ヶ月

いずれも2026年8月時点の順位で、検索順位は変動します。対象はロングテールのキーワードで、ビッグワードを狙わず確実に取れる言葉から積み上げる設計にしているため1ヶ月で結果が出ています。また、これは採用領域の実績ではなくマーケティング用途のSEO実績です。社員の声を蓄積することで応募数や定着率がどう変わるかについては、当社にまだ実測データがありません。そういう設計にしているという構想としてお読みください。魅力採用の全体像は魅力採用とはにまとめています。

出典:ノルツ株式会社 自社運用データ(kigyousien.com/souryokomon.com、2026年8月時点。souryokomon.com はクライアント掲載許可済み)

魅力採用「ミリョクル」について

ミリョクルは、経営者が月1回・60分話すだけで、その内容をAIが記事にして自社サイトに蓄積する魅力採用のサービスです。魅力採用は「魅力を作る・伝える・成長する」の3つの軸からなり、自動化SEOはその中核手段です。料金は内容に応じて個別にお見積もりします。記事本数は収録内容により変動し、本数の保証はありません。

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原本

原本 昌悟(はらもと まさのり) ノルツ株式会社 代表取締役。2019年6月に同社を設立。デザイン経営による経営者伴走支援、起業支援、Web制作・SEOを手がける。HR・人材事業者コミュニティ「HR TOKYO」運営。

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