新しい魅力は、思いつきではなく「誰に向けるか」から決まる

待遇以外の「新しい魅力」をどう作るか|成長・裁量・インセンティブという軸

社員に聞いて既存の魅力を洗い出した。それでも打ち出せる材料が足りない。次は新しい魅力を作る番です。ただし待遇そのものの引き上げは、中小企業にとって資本力の勝負になります。ここでは待遇以外の軸に絞って考えます。解説は、2019年6月にノルツ株式会社を設立し、代表1人で会社を運営しながらHR・人材事業者コミュニティ「HR TOKYO」を運営する代表取締役・原本昌悟です。

要点

新しい魅力を作る出発点は、軸の一覧を眺めることではなく「誰のための魅力か」を先に決めることです。中小企業を志望する求職者は自己成長と裁量を求めていると代表・原本は考えています。その前提に立つと、待遇以外で打てる軸は①成長の場 ②仕事の裁量 ③リスキリングの機会 ④インセンティブ ⑤働く条件の5つです。書き方のコツは「何のスキルが身につくか」まで具体的に書くこと。魅力をつくる工程の後半にあたります。

既存の魅力を見つけた後、なぜ「新しい魅力」が必要になるのか?

採用市場で選ばれるには、すでにある魅力の言語化だけでは足りない場面があるからです。足りない分は、これから作るしかありません。

魅力採用の工程は2段階に分かれます。前半は、社員に聞いてすでに社内にある魅力を見つけ、言語化すること。後半は、それでも競合と並べたときに材料が薄いと判断したときに、新しい魅力を追加することです。前半のやり方は自社の魅力の見つけ方にまとめています。

このページで扱うのは、新しい魅力を追加する後半の工程です。そしてここでは待遇を意図的にスコープから外します。給与水準そのものを上げる勝負は資本力の勝負になり、中小企業が構造的に不利になるためです。この構造については採用の差別化は2段階で考えるで扱っています。

日本のオフィスの階段を上っていく社員の後ろ姿を下から捉えた構図

新しい魅力を考えるとき、最初に決めるべきことは何か?

「誰のための魅力なのか」です。求職者のための魅力である、というところまでは自明ですが、代表・原本はその一段先を重視しています。

「求職者のため」で止めると、出てくる案は一般論になります。どんな求職者に向けるのかを決めて初めて、打つべき軸が絞れる。ここを飛ばしたまま魅力の候補を並べても、誰にも刺さらないリストができるだけだと考えています。

「まず誰のための魅力なのか。もちろん求職者のための魅力ですよっていうのは当然なんですけども、どんな求職者なのかっていうのは結構大事なのかなと思っています」

ノルツ株式会社 代表取締役 原本 昌悟

求職者側が何を見て会社を選んでいるかについては求職者が知りたいのは「差別化」ではなく「魅力」で整理しています。

中小企業を志望する求職者は、何を求めていると考えるべきか?

自己成長したい、仕事の裁量を多く持ちたい。代表・原本はこの2点を前提として置いています。ここは実測データではなく、名義人の見解です。

大手と中小の両方を受けられる状況で、あえて中小企業を志望する人には理由があるはずだ、という考え方です。安定や知名度を最優先するなら大手を選ぶ、という対比は当社の敷衍であり、原本の発言そのものではありません。そのうえで、中小を選ぶ人が見ているのは早く任される環境や、自分の裁量で動ける範囲の広さではないかと考えています。この前提を置くと、打つべき軸が絞れます。

なお、この前提はすべての求職者に当てはまるものではありません。自社の応募者層と一致しているかは、実際に入社した社員の入社理由を集計して確かめるのが確実です。その集計方法は自社の魅力の見つけ方の社員インタビューの項で扱っています。

出典:ノルツ株式会社 代表取締役 原本昌悟へのインタビュー(2026年8月29日収録)。求職者像の前提は名義人の見解であり、統計調査に基づくものではありません。

待遇以外で打てる「新しい魅力」の軸にはどんなものがあるか?

代表・原本が挙げた項目を、当社は5つの軸に整理しています。成長の場、仕事の裁量、リスキリングの機会、インセンティブ、働く条件です。いずれも給与水準そのものを動かさずに設計できます。

中身求職者が受け取る意味着手のしやすさ
① 成長の場任せる範囲を広げ、経験できる仕事の幅を設計するここにいれば伸びられる制度より運用の問題。着手しやすい
② 仕事の裁量判断できる範囲を明示し、実際に任せる自分で決めて動ける権限の線引きを決めるだけで始められる
③ リスキリングの機会e-ラーニング、自分の業務に限らない各種セミナー受講業務外のスキルも取れる費用と時間の確保が必要
④ インセンティブ基本給とは別に、成果をしっかり評価して還元するやった分が返ってくる評価基準の設計が必要
⑤ 働く条件残業が少ない、駅から近い生活が壊れないすでに満たしているなら書くだけ
出典:ノルツ株式会社 代表取締役 原本昌悟へのインタビュー(2026年8月29日収録)。表中の軸は原本の発言に基づく分類です。「求職者が受け取る意味」「着手のしやすさ」は当社の整理であり、効果を保証するものではありません。

「成長の場がある」を求人に書くとき、何を書けばいいか?

「何のスキルを身につけられるか」を明確に書くことです。成長できます、という一文だけでは情報になりません。

「成長できる環境です」は、当社が求人媒体を見てきた実感として、多くの求人票で使われている表現だと考えています(2026年9月時点・統計調査に基づくものではありません)。書いてある側からすると差がつかず、読む側からすると判断材料になりにくい。ここを具体化するには、入社後1年で触れる業務、扱うツール、身につく職能を名詞で書くのが実務的だと考えています。

たとえば「幅広い業務を経験できます」ではなく「見積作成から納品後のフォローまで一人で担当するため、原価計算と顧客折衝の両方が身につきます」と書く。抽象語を1つ減らすほど、求職者が自分の将来を想像しやすくなると考えています。求人票の外側で何を語るかについては求人票だけでは選ばれない理由で扱っています。

「仕事の裁量が広い」は、どう伝えると信じてもらえるか?

裁量の範囲を、判断できることの具体名で示すことです。「裁量があります」という宣言だけでは、実態が見えません。

中小企業の強みとして裁量の広さを挙げる会社は多いと感じていますが、入社してみたら結局すべて社長決裁だった、という食い違いも起こり得ます。入社前に語った内容と入社後の実態がずれれば、定着の面で跳ね返りうる——これは当社の見立てであり、定着率としての実測データを持っているわけではありません。入社前後の一貫性については理念浸透と定着率の関係で整理しています。

伝え方としては、実際に若手が判断している事例を出すのが確実です。誰が、どの範囲を、いつから任されているか。この形なら盛りようがありません。素材の集め方は先輩社員の声を拾うとEVP設計に近づくにまとめています。

日本のオフィスの机に積み上がった書籍と開いたノートパソコンが並ぶ俯瞰

リスキリング・セミナー受講は、どこまで広げるべきか?

自分の業務に限らない範囲まで広げる、というのが代表・原本の考え方です。e-ラーニングを含め、受けられるものの幅そのものが魅力になります。

業務に直結する研修だけを用意している会社は珍しくないと感じています。差がつくのは、いまの担当業務と関係のない領域まで学べるかどうかではないか。営業職がデザインを学べる、事務職が会計を学べる。この幅は「この会社にいると自分の選択肢が増える」という受け取られ方をすると考えています。

中小企業では、学んだことをすぐ実務で試せる距離の近さも同時に効くと考えています。制度として研修があることよりも、学ぶ→使うのサイクルが短いことのほうが伝わりやすいと考えています。

インセンティブは、基本給とどう切り分けるべきか?

基本給(待遇)とは別枠として、成果をしっかり評価する形にすることです。基本給の水準を上げる勝負とは別の話として設計します。

基本給の引き上げは固定費の増加にあたるため、原資に余力のある企業ほど取りやすい選択肢になります。一方でインセンティブは成果が出たときに還元する形のため、原資の作り方が違います。中小企業が待遇以外の軸として使いやすいのはこちらだと考えています。

ただし、評価基準が不透明なままインセンティブだけを設ければ、かえって不信につながりかねないと考えています。何をどう評価するのかを言語化して社内に共有できているか。ここは制度の話ではなく、上司からの発信の話です。上司側からの情報発信については「報連相」は部下から上司だけじゃないで扱っています。

残業の少なさや駅からの近さは、魅力に数えていいのか?

数えてよいと考えています。待遇の一種ではありますが、これも一つの魅力として位置づけられる、というのが代表・原本の立場です。

残業が少ない、駅から近い。この2つは、すでに満たしている会社にとってはコストゼロで打ち出せる魅力です。新たに何かを作る必要がなく、書いていないだけ、という状態の会社もあるのではないかと考えています。

注意点として、これらは他社も打ち出しやすい項目です。ここだけで選ばれる状態を目指すと、条件比較の土俵に乗ることになります。あくまで足切りを通過するための項目として扱い、選ばれる理由は別に用意する。この考え方は新しい魅力は「やれば勝てる」わけではないで詳しく扱っています。

5つの軸のうち、どこから手をつけるべきか?

すでに満たしているのに書いていないものからです。新しく作るより、書くほうが早く終わります。

  1. 働く条件(軸⑤)を確認する。残業の実態と立地は、いま書けるかどうかを確認するだけで済みます。
  2. 裁量の範囲(軸②)を言語化する。すでに任せている範囲を、判断できることの名前で書き出します。
  3. 成長の場(軸①)を具体化する。入社後1年で身につく職能を、名詞で3つ挙げます。
  4. 学習機会(軸③)を広げる。業務外の領域まで受講対象にできるか、費用と時間から検討します。
  5. インセンティブ(軸④)を設計する。評価基準の言語化とセットで進めます。最も時間がかかる項目です。

働く条件・裁量・成長の場(軸⑤・②・①)は今日から書ける内容です。学習機会とインセンティブ(軸③・④)は制度設計が必要になります。すべてを揃えてから発信を始めるのではなく、書けるものから出していくほうが現実的だと考えています。発信を溜め込むと、そのまま止まるためです。止まる理由については経営者の発信が続かない理由で扱っています。

5つの軸を揃えたあと、次に考えるべきことは何か?

自社独自の魅力は何か、という問いです。5つの軸を揃えること自体は、他社より選ばれる理由にはなりにくいためです。

成長の場・裁量・リスキリング・インセンティブ・働く条件の5つは、他社も同様に取り組んでいるケースが多いと代表・原本は考えています。取り組んだこと自体が、他社より選ばれる理由にはなりにくい。それでも先に潰しておいたほうがよい項目である、という位置づけです。この「勝てないが、やらないと負ける」という考え方は、新しい魅力は「やれば勝てる」わけではない|やらないと負ける理由になるという考え方で詳しく解説しています。

その先にあるのが、自社独自の魅力は何かを考える工程です。5つの軸は土台であって、答えではありません。

魅力採用「ミリョクル」について

ミリョクルは、経営者が月1回・60分話すだけで、その内容をAIが記事にして自社サイトに蓄積する魅力採用のサービスです。「魅力を作る・伝える・成長する」の3つの軸からなり、既存の魅力の言語化から、新しい魅力の設計、発信までを一貫して支援します。料金は内容に応じて個別にお見積もりします。記事本数は収録内容により変動し、本数の保証はありません。

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原本

原本 昌悟 ノルツ株式会社 代表取締役。2019年6月に同社を設立。デザイン経営による経営者伴走支援、起業支援、Web制作・SEOを手がける。HR・人材事業者コミュニティ「HR TOKYO」運営。

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